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ご予約はいつでもお受けします さ迷う旅人よ ありふれた日常の 路地裏に門はある 葡萄樹這う煉瓦塀で 嗤う灰猫 メイドのわたしたちは 薔薇と百合の名を持つ でもどちらも闇に開く 貴方の夢のように 逢魔ヶ刻が誘う ただひとつの夜 お招きいたしましょ 蝶のランプ 高い窓へ灯し ロビーに揺れる影 暖炉の火へ重い荷物をくべてみて 惜しいものなんか無いはず 脱いだ服は抜殻 翼をもがれたブーツ もうどこにも行かずに済む すべてが足りる 逢いたい人がいたら いま目を閉じればいい 茉莉花茶(ジャスミンティー)の香りの中 遠い恋 蘇る 優しい追憶ほど 薄れてゆくもの おやすみなさいませ 月の糸で 織ったシーツの底 忘れた子守唄 思い出して 金糸雀が歌い奏でる 生まれる前へと 戻って お帰りなさいませ 明けぬ宵へ さあ心ゆくまで ご予約の二度目は 必要ない 旅を終えた人よ お迎えいたしましょ 淋しければ 美酒のグラス掲げ サロンに踊る影 言葉はなく 知らない者たち同士で ここでは素顔が仮面よ いつまでも変わらない わたしたち待っているわ